2017年7月22日土曜日

黄金比で調弦した楽器をつかって作曲

普段、私たちが耳にする音楽の大半はオクターブ(2倍の音程、ピッチ差)を12分割したドレミで演奏されています。
小学校で習った唱歌、民謡からロックまでほぼ西洋音楽の形式、すなわち五線譜にドレミで記述するシステムでできています。今となっては、日本古来の音楽の雅楽も五線譜かされて出版されています! それだけ、この五線譜&ドレミの論理性と記録性が優れているということを指していると言えます。

さて、このド、ド#、レ…と半音12個からなる音階の起源は、2500年前のピタゴラスによって考案されたものと言われています。純正律や中全音などもありますが、結局はピタゴラス音律の修正版で、音律生成の「システム」としてはピタゴラスの発明以来変わっていません。

◆ ピタゴラス (580BC~500)の音律
二つの1弦琴を並べ、一つを開放弦、もう一つを全体の弦長の1/3の位置に琴柱を挟み3倍音を鳴らします。

このとき、同時に二つを弾くとお互いの音が心地よく響く事を発見したということです。
この高い方の音をオクターブ(2倍音)に収めるために2で割り、周波数比が1.5倍音となるドとソ(完全五度という)を作りました。
そして、さらにソの1.5倍音のレ、さらに1.5倍のラ・・・と、完全5度の繰り返しで12音から鳴る音階を作りました(いわゆる五度圏)。
この音階の「システム」は西洋では長く使われることとなります。
(ただ、ピタゴラス音律ではいくつかの問題があったので、純正律や平均律が作り出されますが、ででもそれらはより良く響くための調整でしかないですね・・・)

ところが、1900年代前半になると、クラシック音楽(いわゆる現代音楽)では、微分音やクラスタ奏法など12音音階に当てはまらない音高が取入れられるようになりました。バルトークやヘンリー・カウエルらが有名でしょう。もう、現代となっては様々なピッチをつかった作曲がなされています。

◆黄金比でピッチを決める
そこで、なにか新しい音律がつくれないかと思い、黄金比を使ってみることにしました。

黄金比は自然界や建築や美術などいろいろな場面で、人が美しく感じる比率と言われています。
式にするとa^2 = b ( a + b )を解きa/bの比は約1.618になります。

ということで、ここでの目標と言うか、意図はこんな感じです。

・既存のとは違った新しい音律をつくりだすシステムの確立
・現代音楽の作曲に対する一アイデアの提案
・アコースティック楽器での奏法と作曲を対象
・開拓された新音律は、一般的に心地よいハーモニーとは限らない。
・とにかく、今までにない新しいサウンドを作りたい。

音律の生成方法は、ピタゴラス音律と同様ですが、掛け合わせる数が3ではなく黄金比の1.618で掛けて、次の音を造り出します。指数関数的に増加しては音律(1オクターブ内の構成要素)が
生成できないので、基準音より1オクターブ増えたら、素数(2,3,5,7,,,)で割ることにしてます。
オクターブを超えるときに素数(2,3,5・・・)のいずれかで割ってオクターブ以内に配置する。
と、詳しい説明はリンクの学会発表のPDF原稿を見ていただくこととして・・・
どんなピッチの音階になるかはこちらのファイルをご覧ください。

・現代音楽のための黄金比を用いた新音律の提案と評価, 日本音響学会2015年秋季研究発表会, 2015.9.
・黄金比による音律で調弦した音楽, 研究報告音楽情報科学(MUS),2015-MUS-107(14), pp.1-6, 2015.5.

◆チューニングをどうする?
 特殊なピッチを考えても、「現実の楽器が対応できない!」ということが多分にあります。
例えば、
・管楽器→専用の楽器を作る!?
・ピアノやハープ→弦が多いから調律が大変!
・バイオリンやギター→易しい
と、バイオリンやギターは新しいピッチによる調律が比較的可能です。
いくら面白いピッチで曲を書いたと言っても、演奏困難(楽器の用意が難しい)では、
やはり演奏してもらえません。
ということで、バイオリンやギターが有力な候補でしょう。

でも、バイオリン属にはちょっと問題があります。
「指定の黄金比ピッチで演奏するのは困難」

そうなんです。通常のドレミのピッチで教育されてきたゆえの障害があるのです。
バイオリンはギターのようにフレットがないので、鍛え抜かれた感覚で
目印がない弦を抑えているので、これまでの通常のドレミ以外で、
○○Hzのピッチを抑えてくださいということは到底不可能に近いのです!

でも、次のような工夫で限定された音楽を書くことなら可能。
・開放弦とハーモニクスで曲を構成
そして、ハーモニクスを重音やアルペジオにすることで特異な音程がより明確に、
また、パートの音を重ねることで黄金比の音程をより複雑に表現して効果的に
するといった工夫で音楽的作品が作れそうな可能性が出てきます。














一方、ギターはフレットがあるのでさらに多くの音が使えるのですが、
ただしハーモニクス以外は黄金比の音律にあるとは限らない、といった
本来の意図やこだわりが満たせないところに目をつぶれるかどうか・・・

◆実際に黄金比のピッチで曲を作ってみた
では、どんな音になるのか?
現代音楽の部類に入る曲(この表現は好きではないが)を書いて、友人に録音をしてもらいました。
黄金比による弦楽四重奏曲、プリペアドギターの作例はこちら
Youtubeで公開している曲。
String quartet by golden ratio
Nocturne for Big City (Prepared Guitar and Tape)